150年間進化し続ける老舗窯元が目指すモノづくりの先 幸楽窯の焼き物[幸楽窯:佐賀県有田町]
幸楽窯
徳永隆信様
佐賀県西松浦郡有田町出身
日本を代表する焼き物の一つ、佐賀県の有田焼。中でも幸楽窯は150年間、窯の火を絶やすことなく続いてきた由緒ある窯元です。
そんな老舗窯元で、有田に新風を巻き起こしているのは、5代目当主徳永隆信さん。自らを「職人ではない」と語る徳永さんに、「ものづくりの先にあるビジネス」について伺いました。
幸楽窯では、焼き物に触れるきっかけとして、「トレジャーハンティング」という体験プログラムが人気です。倉庫内の在庫から好きな器を籠一杯に詰めることができるこの企画。参加者は、制限時間内、倉庫を自由に歩き回ってお宝を探します。出迎えるのは、徳永さんご自慢の、笑顔が素敵なベテランさんや、五カ国語を操るブラジル人スタッフ。お得に買い物ができるだけでなく、実際に工場で働くスタッフさんと会話をし、器の特徴や使い方について学ぶこともできます。
自分の目利きで選んだ器は、国内外に発送可能。日本、海外から多くの観光客が訪れます。時に、飲食店の方がお店にぴったりの食器を掘り出すことも。東京の和風カフェの方が出会ったのは、白く細長い舟形のお皿。白玉団子を6つ並べておくのにぴったりで、今では看板メニューとして大活躍してくれています。
老舗の窯元というと少し緊張してしまいますが、徳永さんは、幸楽窯を「有田で一番敷居が低い窯元」と呼びます。自分の芸術を追求する作家と違い、窯元はお客様ありき。いかに共感を得て、使っていただくか。徳永さんとお話をしてみると、ビジネス戦略やアイデアがポンポンと飛び出し、まさにイノベーターとしての面が強く感じらました。
幸楽窯の初代徳永虎助が、有田町応法山に窯を築いたのは慶応元年(1865年)。150年以上の歴史を持つ窯元です。焼き物の産地として全国に知られる有田ですが、これだけ長い間窯の火を消さないで続いているのは、非常に稀有な存在。
徳永さんは、その秘訣を「時代に即したモノづくり」にあると語ります。
江戸末期にあたる開設時、初代が作っていたのは主に火鉢。戦時中にあたる二代目の時代は軍用食器を製作。三代目になると、谷合にあった窯を現在の位置に移し、24時間の量産体制を整備。行動成長期を迎え、家庭用食器の生産で大きく栄えます。昭和末~平成に入り四代目になると業務用食器がメインとなりました。三代目のお爺様、4代目のお父様を振り返り、「祖父は実業家で、背広しか着ていないような人。250人の従業員を抱え、事業を拡大しました。父は完全に作家で、営業が弱かった。それを引き継いだ自分は、経営者としてはいろんなものを背負ってしまいました。」と語ります。五代目にあたる徳永さんは、ご自分のスタイルを「コト売り」と呼ばれます。物の売れない時代、過去を超えるためには、モノづくりプラスアルファがなくてはならない。グラフィックを使ったデザインや、欲しい人たちに向けての情報発信、体験の提供など、「共感」を作り上げることだと語ります。徳永さんは、社長就任に当たり、「製造業」から「製造サービス業」へと経営改革を行い、開かれた窯へと生まれ変わりました。以前は私語厳禁の厳しい職場だった時代もありますが、今では徳永さんの自慢は「従業員の笑顔」。創業以来の理念「家庭に幸いを、食卓に楽しさを」を体現しています。
芸大で焼き物を学ばれた徳永さんですが、大学の授業がろくろから始まることに疑問を感じました。周りは家が窯元ではない学生がほとんどでしたが、窯元で育った徳永さんは「ろくろだけでは会社の皆を養っていけない。焼き物はみんなで作るもの」と考えていたからです。
「大学の先生は、売ることを生業としているわけではない。技術的なものは教えてくれるが、それをどう活かして事業としていくかは学べない。それを支える営業力が必要。」そんな思いを強くしたのでした。
卒業後は、東洋ガラスで3年、マーケティング部デザイナーとして勤務。PETボトルが出る前の時代、ガラス製ボトルは様々な形があり、非常に面白かったと振り返ります。社会人1年目でMacを渡され、まさに、アナログからデジタルへの過渡期を経験します。手書きより確実に描けるグラフィックの曲線や、リアルタイムのプレゼンなどは、デジタルの良さを多く実感させてくれました。
幸楽窯で実際に器の形を作って焼くのは、従業員である職人さんたちで、徳永さんのメインは、B to B営業や、コラボやオリジナル商品企画、デザイン、プレゼンなど。そんなご自身の仕事を「システムをクリエイトすること」と表現されます。
「今は一つのことを極めるような仕事は、ロボットに取って代わられてしまう。職人は手先の喜びだけになってしまうので、とてもかわいそうな時代です。なので、職人は作ることに専念してもらい、売ることは売る人がやる。お互いの力の掛け合わせです。」
そんな徳永さんの考えが強く表れるのが、アーティスト・イン・レジデンスの企画。国内外の作家が、敷地内の宿泊施設に滞在して、じっくり作陶に取り組みます。実際の施設を使い、職人たちとコミュニケーションを取りながら学べるプログラム。滞在型アート事業は各地にありますが、幸楽窯の特徴は、「製品化も視野に入れた学びができること」です。
せっかく良いものを作っても、食べていけなくては続けられない。自分が作ったものが、どう使われるのか、果たして商品となるのか。参加者は施設内の設備を使うだけでなく、ビジネスの現場も学ぶことができます。そんな「ものづくりの先」が学べることから、参加者がリピーターとなって戻ってくることも多いそうです。
もう一つ、徳永さんが大切にしているのは、「お皿は完成品ではない」という感覚。料理を盛って、使っていただくことで完成する。ですので、作り手の一方的な思いだけではよいものは作れず、実際に使う消費者や飲食店の声を聞いて、一緒に考えることが大切。そのためには、売り手を信頼し、託すことも重要。その意味で、カタルスペースでも実際の使用感を語り合い、お互いの声を届けあうことができると大いに期待をいただいています。徳永さんは「これからの観光は確認旅行になる。情報が溢れ、行った感覚はバーチャルでも味わうことができます。行きたいというリミッターを超えたとき、現地に行って確認することになる」と語ります。カタルスペースは、いわば「確認購買」。実際に触れ、会話し、共感して買い物ができる。
インターネットが発達し、さらにCOVID19により移動が少なくなった今日。徳永さんは、リアルとバーチャルのバランスが重要になると考えられます。カタルスペースでは、お客様は実際に手に触れて商品を確かめることが、店舗側は在庫リスクなく新しい展開を試すことが、そして作り手は実際の利用者の声を聞くことができます。また、既存の有田焼の商社が卸先にカタルスペースのサービスを紹介すれば、商社も商材が増え、拠点も広がります。商社もホテルレストランの売り上げが落ち、出張費も出ない中、崩壊寸前となったこれまでのシステムを何とか活用し、Win-Winの関係を作ることができると考えます。
自らの商品だけでなく、共感をつくり出す、それぞれの強みを活かしたビジネスモデルを次々と考えられる徳永さん。カタルスペースご利用の店舗の皆様に、ぜひ出会っていただきたいクリエイターさんです。
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