「日本の照明はイサム・ノグチしかないの?」フランスで言われた一言からはじまった執念のブランド モアレ [柿下木材工業所:岐阜県高山市]

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「日本の照明はイサム・ノグチしかないの?」フランスで言われた一言からはじまった執念のブランド モアレ [柿下木材工業所:岐阜県高山市]

山に囲まれた岐阜県高山市は、古くから木工の高い技術で知られます。中でも珍しい木工の照明器具を作られる柿下木材工業所。様々な危機を乗り越え、しなやかに活動される3代目代表の柿下孝司さんにお話を伺いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木工の町の照明メーカー

 

日本有数の家具産地で多くの家具工場のある岐阜県高山市。その中でも、柿下木材工業所は、家具は作らず、照明器具に特化した木工メーカー。照明器具を作る技術は、非常にこまかく、精密。斜めにカットした木材を少しのずれが出ないよう、緻密な作業となります。

柿下木材工業所は、1957年柿下さんのお爺様が創業。薄く剥いだ木を張り合わせる合板づくりをベースに、曲木を使った照明器具製造を開始。大手照明メーカー向けに、和室用照明や木製シャンデリアの部品を納めるようになりました。

 

 

「日本の照明はイサム・ノグチしかないの?」フランスで言われた衝撃の一言

 

転機が訪れたのは、2000年1月。OEMをメインとしていた柿下木材工業所ですが、オリジナルブランドを立ち上げることになりました。そこで出展したフランスの「メゾン・エ・オブジェ・パリ」。この見本市での体験が柿下さんに衝撃を与えることになります。

高山の家具メーカーとともに、有名なイサム・ノグチの照明も持って行ったのですが、それを見た来場者が発したのが、「日本の照明はこれしかないの?」という一言だったのです。

※イサム・ノグチ:アメリカ合衆国ロサンゼルス生まれの彫刻家、画家、インテリアデザイナー。1951年に来日した際に当時の岐阜市長の依頼で岐阜提灯をモチーフにした「AKARI(あかり)」シリーズのデザインを開始。AKARIシリーズは世界中で愛される「光の彫刻」ともいわれる照明シリーズ

 

 

工場全焼の危機

 

「日本の照明はイサム・ノグチしかないの?」照明を作り続けてきたつくり手としては、心から揺さぶられる言葉でした。そこで、オリジナル製品に力を入れ、発信していこうとした矢先、大事件が起きます。なんと、展示会翌月に工場が全焼。続いて翌3月には創業者が亡くなります。会社も機械もすべて失う中、オリジナルの照明器具を断念し、再建のための仕事を10年間続けました。
当時を振り返って、「もう焼け野原ですよ。壁と天井はブルーシートで、雪と溶接の火花が舞う中で、作業をする毎日でした」と語る柿下さんですが、印象的なのが、終始笑いながら話されること。「苦労とは思っていないです。当時社長だった親父は大変だったと思います。その時のことを思えば、今のコロナ危機はなんてことないですよ」。切り抜けてきたパワーがひしひしと伝わります。

 

 

オリジナルブランド モアレ誕生

 

再びチャンスが訪れたのは、2006年。岐阜県からの紹介で、フィンランドのデザイナーHEIKKE・RUOHO氏と照明器具をつくることになり、翌2007年、自社ブランド「モアレ」を立ち上げます。

さらに2011年の東日本大震災により、省エネ効果の高いLEDが普及し始めると、全国の照明メーカーの中でもいち早く導入に踏み切りました。

優しい明りで、愛用者も多く、作る側としても慣れ親しんだ白熱灯を離れるのは大きな決断でした。LEDは直進方向に強い明りが出ます。これは白熱灯の光方とは全く違うので、今までの照明の作り方とは全くちがう設計が必要となりました。新たに採用したデザイナー渋谷達也氏とも相談し、木の角度で光をコントロール。反射も利用し、器具から発せられる光も含めた照明表現を可能にしました。

デザイン的に新たな挑戦となったLEDですが、使ってみると実は木との相性が非常にいいことに気付きました。まず何より、省エネであること。消費電力は白熱灯の10分の1。木は熱くなりすぎると反ったり、火災にもつながりますが、100℃まで上がる白熱灯に対し、LEDは60℃までしか上がらないため、安全に使っていただくことができます。

販売時はLED電球をつけた状態で販売。これは照明器具としては珍しいこと。LED電球はそれだけで3000円近くするため、電球付きで売ると見た目の値段が高くなります。しかし、柿下さんは最適な明りを、すぐに使っていただくため、敢えて電球付きで販売。買ったその日から美しい照明を楽しんでいただくことができます。

 

 

 

「次の工程はお客さん」柿下木材工業所のモットー

 

柿下木材工業所の従業員は、パートを含め25名。柿下さんが自慢に思っているのは、一つ一つの工程の丁寧さ。これを柿下さんは、「次の工程はお客さん」と表現します。

ものづくりは本当にシビアな世界。コンマ1ミリ隙間できただけでも製品にひずみが生まれます。丁寧に切らなくては、次の工程で木を組む際にうまく組めません。磨きが悪ければ磨き直しが必要なので、次の工程の職人の作業もストップ。積もり積もれば、最終的にはお客様に出せなくなってしまいます。

単純な作業の積み重ねですが、何年たっても同じクオリティを保つのは、技術だけでなく精神的な面も求められます。丁寧な仕事で、次の工程のことを考え、しっかりとバトンを渡していく。「派手さはなく、スーパースターもいないけれど、みんなが妥協なく、コツコツやってくれます。それが自慢です」と語られます。

 

 

メイドイン岐阜を広げたい

 

日本の真ん中に位置する海なし県の岐阜では、柿下さんの言われるように派手さはなくとも、実直な県民性の中に、地域ごとに特色ある産業が培われています。高山の木工、美濃和紙、岐阜市の盆提灯、刃物を中心とした関市の鉄 瑞浪市や土岐市の陶器、そして近年は大垣市のITも。いろいろな部品を組み合わせて作る照明は、これらを組み合わせて作ることができます。定番である提灯はもちろん、瑞浪の白磁や関市の鉄の把手を使うなど、様々な地域連携を進めています。

「こんな時代なので、手を取り合って仲良くウィンウィンの関係を作っていきたい」。夢は大きく膨らみます。

 

 

エピソード

 

柿下さんの他社と協力し合う姿勢は、卸先との関係にも見られます。エンドユーザーの声を直接聞く機会はあまりありませんが、問屋さんやインテリアショップからは、積極的にお客様の声を集め、商品開発に反映します。例えば、スイッチの位置が使いづらかったと聞いてすぐに修正をしたことも。「フィードバックがもらえるのは有り難い。小さいメーカーだからこそ、スピード感をもって臨機応変に対応します。」とこれまたとても前向き。

オープンで誠実な人柄もあって関係は広がり、ドラマなどでモアレの商品が使われることも出てきました。購入いただいたお客様はもちろん、取引先やスタッフも喜んで、ブランドへの愛着・誇りにつながっているそうです。

 

 

点と点が繋がって線に

 

これからのビジネスは、大規模店舗で展開するより、小さな拠点をたくさん持ち、線につなげていくことが力になると考えられています。

柿下さんの心に残っているのは、フランスで言われた「イサム・ノグチしかないの?」の言葉。この言葉を胸に刻み、 “イサム・ノグチの照明が長く愛されているように、モアレも10年後、50年後も愛されて続ける照明であってほしい”そんな想いを込めて商品作りをされています。木製照明器具という決して大きくはないジャンルに興味を持って下さる、こだわりのある方との出会いを楽しみにされているとのこと。

COVID19もあり、発信の仕方はどんどん変わっていきます。柿下さんは、小規模でも、地方でも、工夫次第で大手に負けない発信ができる現在を「チャンス」と呼ばれます。

モアレは、この強さとしなやかさを表現する明りです。